漫画好きのひとり言

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ましろのおと (羅川真里茂) Track.107

「春暁」を聞きながらアレクセイは昔の事を思い出していた。
父親は上映する作品を自分で選ぶ事が出来る映画館で働いた。
「夢のミニシアターだ」
 
しかしそこで上映されるのは、他にアテがない作品ばかり。
そんな映画館に人が集まるわけもなく、経営は厳しかった。
 
アレクセイは映画館の雑務とロシア系の店で働く日々。
これがアメリカに来てまでする事か?
 
ここでの生活に嫌気が差していた頃、
カメラで色んなモノを撮っていると、
映画館で働いている所を見た者が声を掛けてきた。
 
「撮るの好き? 興味ある?
仲間と自主映画を作るんだけど、人手が足りないんだ
あんま金になんねぇけど勉強にはなるぜ」
 
映像の世界の入り口だった
道が分からず 抑えていた
俺は 映画が 大好きだ
 
雪は演奏を続けながら思う所があった
じっちゃの春暁は「生」だ
せば 俺は 俺なりの 表現は・・・
 
隣で雪の演奏を見ていた舞は驚いていましたね。
・・・音がゆっくりに聴こえる
こんなに指は動いでいるのに!!
 
俺の音は記憶だ
 
映像の世界に足を踏み入れたアレクセイ。
ツテで映画制作の現場に入るまでになった。
 
父が働いていたシアターは大赤字。
いつの間にか発表の場のない者達のシアターとなっていたのだ。
それでは当然、儲かるわけがない。
 
アメリカに来て10年。
知人の協力でアレクセイは永住権を得られるようだ。
 
アレクセイが撮った動画を映画館で流していると吹雪が映った。
これは昔、アパートの前から撮っただけのものだが、
父は嬉しそうだった。
祖国を思い出していたのかもしれない。
 
演奏は静から動へ
舞達も演奏に加わり、旋律がカノンになった。
 
じっちゃが死んで ここにもう好きな音はないと思った
三味線で食べていくと決めた
三味線は独りで弾くものだと思っていた
「上手・下手」以前に「好き・嫌い」があるんだと知った
 
三弦の共鳴が欲しくて ほしくて
 
聞いていたアレクセイは、自然と拳を握っていた。
 
シアターが閉鎖され、次の年には父が亡くなった
病院へ行けず 葬儀も行なわれず・・・
 
父は夢を見たのか?
現実に嫌気が差したのか?
 
そんな父が亡くなった事を悔やむ者がいた。
あそこで上映して貰えたおかげで、
欧州の映画祭に作品をエントリーできたと言っていた。
 
父の映画館で上映された事が足がかりになったと言う者は他にもいた。
つまり父のやって来た事は無駄ではなかった。
そしてそれが自分にも返ってきた。
 
父に足がかりを作って貰ったのは彼らだけじゃない。
 
演奏は続いていた。
「今」 聴いて欲しい
四棹の三弦の共鳴が重なる
 
アレクセイは作品を否定され
変わらなければと足掻いてみたが
足掻きは自分を殺した
 
母と再会した時、アレクセイはアメリカに連れて行かれた理由を訊いた。
「お前は指を噛み続け 壁に頭を打ちつけ出した
憶えていないのかい?」
 
夢を失い、苦しんでいた。
だから父はアメリカに連れてきたのだ。
父がアメリカに来たかったのではない、アレクセイが・・・
 
父の言葉を思い出した
「お前の父の夢のミニシアターだ」ではなく、
「お前の夢のミニシアターだ」と言ったのだ。
 
記憶を辿り 「核」に行き着く
祖に帰る
 
一度そぎ落とした じっちゃの音
戻って・・・くる?
 
四棹の共鳴が変化をもたらした?
そして雪は手応えを感じられるのでしょうか。