漫画好きのひとり言

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時給三百円の死神 (作画/桐原いづみ 原作/藤まる) 10話

雪希の時間を止める能力は強すぎる。
こちらも死者の力で対抗するしかないが、
真司が知っている死者と言えば雨野くらいしかいない。
 
雨野は雪希を傷付けているから、真司も雨野には容赦なかった。
口では協力をお願いできないかと言っているものの、
カッターナイフを突き付けて脅しているのだ。
 
さすがに殺されては堪らないので、雨野も真司の要求を呑むほかない。
ちなみに雨野の能力は、頭の中で対象人物を思い浮かべれば、
どれだけ離れていてもテレパシーでメッセージを送れるというもの。
 
一方通行(送信のみ)だが、この能力は使える。
雪希に真司のメッセージを伝えて貰える。
 
メッセージは「あの砂浜で永遠にキミを待つ」
これだけだ。
 
飲まず食わずで、ずっと砂浜で待つ真司。
3日目には飢え死を気にしたのか、
雪希が能力を使って水とオニギリを置いていった。
オニギリは食べなかったが、水だけは貰った。
 
・・・何日経ったっけ・・・
このまま死んだら 俺も《死者》になったりするのかなぁ・・・
 
そんな事を考えていたら、音が止まった。
もう自分は死ぬのかと思ったが、そうではなかった。
背中が温かかった。
 
ああ そうか 来てくれたんだな 花森(雪希)
 
止まった世界で誰かに触れれば
その人の時間停止だけを解除出来る・・・だっけか
久し振りだな 花森
 
そう雪希に話しかけると、馬鹿じゃないのと言われる。
こうでもしないと会えないと思って
 
馬鹿とかアホとか言われるが、
真司は笑顔で雪希にプレゼントを渡す。
遅れちまったけど・・・ 誕生日おめでとう
 
死にかけのくせに何 言ってんのよと泣かれた。
 
花森 ・・・俺はさ
おまえのことを知りたいんだ
教えて・・・ くれないか
 
それは持って来たパンを食べてからと雪希に言われる。
飢えて死にそうになっているのだ、まずは食べて欲しいのだろう。
 
雪希が小学一年生の時に両親が離婚した。
父は病気で余命幾ばくも無く、今のうちから二人で暮らせるように
慣れていって欲しいと言う意図があったようだ。
 
仕事と育児に追われる母の生活は、いつからか母から笑顔を奪っていた。
いつも疲れた顔で遠くを見ている
あの頃の母はずっとそんな感じだった
 
二年生に上がった頃、父が亡くなった。
父の最期を看取らなかった母に非難が集まっていたが、
母はいつもと変わらないように見えた。
それから少しして 母から山へピクニックに行こうと言われた。
 
久し振りの母とのお出掛けにはしゃいだ。
川辺で魚を見つけて母を呼んだが、
その時に足を滑らせて川に落ちてしまった。
 
母に助けの手を差し伸べた。
でも母は、雪希の頭を掴み・・・
 
なんで? お母さん なんで・・・
 
私はそのまま溺れて死んだ
母は魔が差したのだと思った
あの頃の母は当たり散らすこともなく、ずっと理想のお母さんだった。
でも内側では色んな苦しみが渦巻いていたんだと思う。
 
真司はそれを聞いて思った。
だから雪希はどうしても夕ちゃんを救いたかったんだ
 
ここまで話して雪希は、その記憶が間違っているかもしれないと言う。
溺れてパニックになっていたから、本当はどうだったか全然思い出せないのだ。
本当は、母親は助けようとしていたのかもしれない。
 
でもロスタイムが発生して、川で溺れた事実もなくなってしまった。
母に確認も取れないし、訊きたくもない。
 
それに、その日から母は変わった。
仕事を変えて笑顔も戻ってきて、
どれだけ忙しくても誕生日は祝ってくれたし、
授業参観には有給を取って必ず駆け付けてくれた。
 
そんな凄いお母さんを、
「殺されたのかもしれない」とずっと疑い続けた。
そんな自分が嫌だった。許せなかった。
 
私の人生は後悔しかない
 
死ぬ前の雪希は大人しくて泣き虫だった。
でもそれだと世界に押し潰されそうだったから、
私は不幸じゃないって叫びたくて無理にでも笑うようになった。
 
それで友達は増えたし、毎日が楽しくなった。
でも・・・ 母の目が見られなくなっていた。
 
いつ終わりが来るか分からないロスタイムも
全てが無かった事になるのも
仲良くなった人全員から忘れられるのも全部怖いけど
お母さんに対してうまく笑えないことが・・・ それがすごく嫌だった
 
学校が終わっても家には真っ直ぐ帰れず、
日が暮れる度に、このまま時が止まればいいのにと何度も思っていた
そうしたら、本当に時を止められるようになったのだ。
 
その時に気付いたんだ
私の望みは生きていた頃のように
一度で良いから笑顔で「ただいま」って言いたい
そしてお母さんの目をきちんと見て
お母さんの「おかえり」って言葉を聞きたい
 
生前の私が もっとお母さんの気持ちを分かってあげられていたら
こんな事にはならなかったかもしれない
でもそんなの今更どうにかできるわけがない
 
これが私の未練なんだって
 
そして中三の時に突然手紙が届いて、死神になった
何か変わらないかなって淡い希望を持って続けていたら
真司に会えた
 
真司が悩み苦しんで それでも強く立ち上がる姿は憧れた
輝いて見えた
 
だんだんロスタイムも悪い事ばかりじゃないと思えてきた
ずっと無理に笑ってきたけど、
本当に心から楽しいと思える日があるようになった
 
だから死者とバレた時は、もう終わりかなと思った。
でも隣にいて改めて思うよ
キミの隣は・・・ こんなにも幸せで落ち着くんだなって
 
真司は雪希に手渡されたお金を返した。
こんなもので俺たちの関係に片が付くのかと怒った。
もう二度としないと謝る雪希に真司は提案した。
 
なあ 花森 思い出を作らないか
確かに未練を晴らすことは出来ない
でも朝月がそうだったように
未練に負けないくらいの幸せを見つける事が出来れば
きっと この世に生まれて良かったと思えるはずだ
 
朝月が教えてくれたんだけどさ
人は過去に怯えるより
明日に希望を抱く方が幸せになれるみたいだぜ
 
そんな奇跡のような時間を 俺たちの最後にしよう
 
真司は死神としての残りの時間を全てかけて
雪希を幸せにすると誓う。
 
残り二ヶ月・・・ 全力の二ヶ月だ
 
雪希は心がちょっとだけ軽くなった
 
うっし! なんだか元気が出てきたぞ
 
よしよし その意気だ
 
それじゃあ・・・
真司に寄りかかりながら雪希は言う。
どうぞよろしくね 佐倉君
 
絶対 楽しい毎日にしてね
 
・・・任せろ
 
雪希を幸せにする。
それが今の真司に出来ること。
たとえそれが全て記憶から なくなってしまうことであろうとも。
 
どう考えても切ない話になりそうですよね。
クライマックスは近そうですが、覚悟して読んでいきます。