漫画好きのひとり言

今までありがとうございました!

ましろのおと (羅川真里茂) Track.113

若菜が青森に戻って二週間が経った。

よく眠れるようになったし、

目覚ましをかけなくても朝には目が覚める。

 

不思議と落ち着いでる

STCの「春暁」ば聴いで焦ってだアレが遠のいでいぐ

 

流絃に付いて、彼の演奏を傍で聴いていた。

これまでは気付けなかった事に気付けるようになってきた。

 

間奏での三本弾きは高橋竹山先生の手法。

しかし流絃の音になっている。

リスペクトしてる

 

若菜は昔の事を思い出していた。

雪と二人でこっそり祖父の演奏を聴いた時のことだ。

 

もしかして 思い出補正されでるがもしんね

したども これが俺と雪の太棹へのファーストインプレッション

こんな片田舎で「卓越なる音」ば聴いだんだ

自ずと道は開くってもんだべ

 

そして祖父から言われたことを思い出していた。

弾げるんだば弾げばいい

我ぁがどやして辿り着いだんだが

技巧の話でねぐ 解釈の話だ

 

流絃からは「そろそろつまんねぐなってきたが?」と訊かれたが

「・・・いえ この縛りのある状況にこそ 解放感を覚えでます」と答えた。

嘘偽りの無い言葉でしょう。

 

しかし、この状況を快く思っていない者がいた。

梅子だ。

やる気が出たんだばいいったって

したけど よりによって源蔵ば 頼るとはね

 

源蔵ば・・・ 流絃ば・・・

認めねばなんね あれは津軽三味線の裾野ば広げる者

 

しかし梅子も負けを認めたわけじゃない。

あだしだって 広げでみせる

 

ここで部下に連絡を入れる。

アメリカロサンゼルス便1枚押えで 例の件進めるよ

 

流絃を家に送る車内で「弾ぎてぐなったべ?」と言われた。

そろそろ弾かなくてはならないとは思っていた若菜。

それを伝えると、ノンビリしている所は松吾郎さんと似ていると言われた。

 

松吾郎の方がもっとなるようになる生き方をしていたとも言っていたが、

演奏では無く生き方の話なのかと訊くと、どっちでも同じ話と言われる。

生ぎ方が音に出るはんでな

 

ここで若菜はずっと思っていた疑問を流絃にぶつけていた。

あれだけ三味線が上手な人が、何故 田舎でひっそり暮らしていたのか?

 

それは流絃自身の話とも重なる。

世界的に有名になった流絃だが、そんな彼も同じように訊かれるのだ。

「なぜ そんな人知れぬ遠い所で活動を?」と。

グランドマスターは検索してすぐにヒットしなければならないのだ。

 

でもなぁ 名人 名工と言われる人

特に地域で発展したのは

そごであだり前のように生ぎでるんだ

探し出さねば見つけらんね名人なんて珍しぐね

そしてそれは日本だげでねぐ

世界中どこにでもいる

 

だばって 光ばあでねば

無ぐなってまるのもあります

 

ふっ そたに気負わせんな

無ぐなる時は腹括ってる

型があれば やりてぇ人が生ぎ返らすべ

若菜は流絃の言葉をどう受け取ったのでしょうか。

 

そして流絃は若菜に今日で付き人は終了と告げる。

教える事は何も無いと言われ、若菜は戸惑う。

それでは何も掴めていない事に・・・

 

新しい「春暁」が必要か?

雪は音を探しに「外」に行った

お前は今は外に出ででも本当は「こご」がいんだべ?

梅ちゃんは「外」に出だ そうしたがったがらだ

松吾郎さんと八重さんは「こご」にいだ

それで幸せだった

我は難しい事ば喋てるが?

たげ単純な事でねが?

 

この言葉は若菜に響いた。

布団に入りながら考えていた。

単純な事・・・

そうなのか?

「春暁」をどう弾ぎたいのが? と言われだ時がら

思わねがったわけでねぇ

 

昔 読んだ詩の断片が浮かんで消える

宮沢賢治雨ニモマケズだ。

若菜は起き上がり、懐中電灯をもって

雪と子供の頃によく行った裏山へ出掛けた。

 

浮かぶのは祖父との思い出。

裏山の頂上に登ったことには夜が明けてきた。

明るくなってきた辺りを見つめ、若菜は涙を流す。

大事無い――・・・がいい

 

若菜は心に決めたことがあった。

雪は 進化する 俺は 伝承する

 

総一は若菜が付き人として来なくなった事を残念がっていた。

ああいう兄貴が欲しかったらしい。

流絃は微笑みながら総一に伝えた。

「可愛い妹がいるべよ」

全くだよ

 

こうして吹っ切れた若菜。

若菜の音が戻ってきた。

 

そしてカルフォルニアでは映画祭が開かれていた。

ここにアレクセイが参加しているのだ。

インタビューを受け、「ただいま」と答えるアレクセイ。

 

アレクセイの作品が受賞するのか?

次号の結果発表が楽しみです。