漫画好きのひとり言

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時給三百円の死神 (作画/桐原いづみ 原作/藤まる) 最終話

雪希の家に入った真司。
母親に挨拶をするが、時を止めているので当然、反応はない。
 
時を止めたまま、雪希は何かを決意して
母親と面向かっている真司の隣に座る。
真司の手を握り、母親に話し始める。
 
お母さん 時間止めたままでごめんね
この件を面と向かってお話しするのは・・・
どうしても無理そうで・・・
 
目を合わせることも出来ない時期もあった。
取り繕う日々を重ねてここまできた。
 
今の母親はとても優しい。
寝ている時にベッドに忍び込んだら、
凄くビックリしていたけど、その後で抱き締めてくれた。
温かくてふわふわしていて・・・
 
でも 心の奥が・・・ 真っ暗なまま
あの日から 私の時間は止まったまま
二人で出掛けた山奥・・・
お母さんは 凄く乾いた笑顔をしていて
私はそれに・・・ 気が付かないふりをした
 
ずっとあの日から動けない
どんなにお母さんが優しくされても
私のためを思ってくれても
あの日の傷が消えないの
 
あの時 私が気遣えば・・・
未来は・・・ 変わってたのかな
 
私・・・ 私ね・・・
お母さんを恨んでる
・・・でも
愛してるよ
 
ありがとう さよなら
 
家を飛び出した雪希。
この言葉を言うのに どれだけの時間が必要だったのか
どれだけの覚悟が 決意が必要だったのか
これが花森の 世界への別れの言葉なんだな
 
雪希をつかまえる真司。
泣き崩れる雪希をしっかり抱き締め
よくやった よく頑張ったよ 花森 と声を掛ける。
 
花森の止まった時間が これで動き出すんだ
 
これで終わりにするという雪希。
死神を退職する人は「どんな願いも叶える《希望》を申請出来る」。
雪希はその申請書に書く内容を決めたと言う。
 
サッカーボールを持っていつも同じ所で立っている《死者》の男の子
あの子のために使うと言う。
 
雪希は夕ちゃんの事がずっと引っ掛かっていた。
だから誰かに、夕ちゃんの分まで幸せになって貰いたい
生まれてきて良かったと思って欲しい
もしそれで希望が叶うなら こんなに素敵なことは無い
 
あの日 朝月は言っていた
花森はずっと・・・ 誰にとっても
幸せである世界を望んでいたんだな
 
自分の中で決着を付けることが出来たし、
最後を見届けてくれる人が隣に居る。
佐倉君 こんな素敵な最後にしてくれて ありがとね
 
真司は雪希に伝える。
昔から幸せってなんだろうって考えていたんだけど
自分の中で答えが出てきた
それは 今が幸せだと知る事
失う前に気付けること
失っても幸せだったと思い出せること
・・・思い出せなくても
いつか・・・ 思い出せると願うこと
 
・・・うん 私も・・・
幸せだったよ
 
そう言って雪希は消えた。
最後まで笑顔で旅立っていった。
 
ポストには無記名の手紙が二通届いていた。
一つは「日付が変わると同時に退職手続きが完了します」というもの。
もう一つは「希望を提出せよ」というものだった。
 
当初は母親に会いに行くために始めたバイトだったが、
広岡さんに会って母親の愛情が全部嘘では無いと知ったから
会いに行く理由が無くなった。
だから、このお金の使い道は・・・
 
とりあえず美味しいモノを食べて、
そこで偶然隣に居合わせた人の会話がキッカケで時計を買った。
 
あとは希望の申請だが、
真司も あのサッカーボールの少年の為に使う事に決めた。
少年の隣に行って語り始める。
 
俺さ・・・ ずっと自分の人生をやり直したかったんだ
だけど どれだけ苦しくても 辛くても
それこそが俺の人生なんだって気付いた
 
大事なのは受け止め そのうえで前に進むことだって
俺が出会った人達は みんなそうやって生きてた
・・・っていっても《死者》なんだけどさ
凄く格好良くて素敵な人達だったんだ
 
特に俺の上司が・・・ 花森っていうんだけど
いつも笑顔で馬鹿な事ばっか言ってて 頑張ってて
・・・あいつは あいつは・・・ キミの幸せを願ってた
 
だから俺は・・・
真司は「今 隣に居る少年が幸せに辿り着くまで
迷いなく歩めますように」と書いた。
 
もうすぐ真司は雪希を忘れる。
でもやっぱり 忘れたくない
涙がこぼれる。
最後まで笑顔でいようとしたが無理だった。
 
真司は少年に死神の仕事を勧めた。
この世界に素敵な人達がいたことを
キミにも知っておいて欲しいんだ
 
これもいずれ消えゆく物語
明日になれば俺は全て忘れるし
この子が旅立てば儚く消える俺たちの物語
それでも きっと この物語が 誰かの心に受け継がれるはず
そうやって 世界は回っていくんだ
 
真司は買った時計を父親にプレゼントした。
 
 
朝月が亡くなって三年とちょっと過ぎた。
父親は時計は真司のプレゼントだというが、
そんな記憶は無いし、そもそもそんな金もなかった。
 
でも父親が時計を着けていると嬉しい。
そして何故か朝早く郵便の確認をしてしまう。
 
そういえば朝月が亡くなってからの半年は記憶が曖昧なのだ。
何かを忘れているような 覚えているような 不思議な感覚
こういうのをデジャブというのだろうか
 
父親の支援もあって一年遅れで専門学校に入った真司。
クラスメイトに、この事を話すと「それはジャメブだよ」と言われる。
忘れているだけで記憶の何処かでは覚えていると言うのだ。
 
時給五百円のバイトの話を聞いた時に、
あの時よりはマシと思ったが、あの時っていつだ?
やはり何か忘れているのだろうか・・・
 
朝月が亡くなって、自暴自棄になっていた俺が
いつから積極的にバイトを探すようになったんだろう
前に進もうと 頑張らなければと
そう思えたのは いつからだっただろう
人に優しくありたいと思ったのは いつからだっただろう
 
そんな真司に声を掛けてきた少女がいた。
ツインテールで笑顔の可愛い女の子だ。
「お元気ですか?」
 
真司に見覚えは無かったが、
以前に一度 容姿は違いますが この横断歩道で
 
容姿が違う・・・?
髪型が違うとかいう意味か・・・?
でも子供の知り合いなんて・・・
 
ここで真司は何かが繋がりかけた。
なんだろう・・・ キミを・・・
キミたちを・・・ 知っているような気がする
 
そう言うと、「おめでとう」と言われた。
あなたはどうやら辿り着けたようです
この世界には小さな奇跡がいくつもあります
こんな優しさが・・・ あってもいいでしょう
 
目の前に現れたのは、あのサッカーボールの少年。
真司は覚えていないが、少年はお礼を言う。
時間はかかったけど・・・
やっとロスタイムを終えることが出来そうです
最後にお礼が言いたくて・・・
本当にありがとうございました
 
それでも思い出せない真司。
少年は続ける。
 
透明な本の話を覚えていますか?
何処かに残る・・・ 決して消えない物語です
この物語は僕がいなくなれば
再び透明になってしまうけれど・・・
 
でも今・・・ この瞬間だけでも
あなたを幸せに出来るんじゃないかと・・・
そう思ったんです 思い出してください
 
あなたには大切な人がいた
素敵な出会いがあった
時給三百円の死神が築いた人生の欠片
それを・・・ 届けに来ました
 
真司は雪希の笑顔を思い出した。
ああ・・・ 思い出せたよ・・・
花森・・・
幸せの種を蒔こう
踏み潰されても 消えても
意味が無くても いつかきっと
それが何処かに繋がって
 
そして小さな幸せな花が咲くのだ
 
真司の優しさが奇跡を生んだ。
雪希もきっと喜んでいるでしょう。
 
良い物語でした!
連載お疲れ様でした。
桐原いづみ先生&藤まる先生の次回作を楽しみにしています。