漫画好きのひとり言

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鬼滅の刃(吾峠呼世晴) 特別読切

お前は炎柱になれない
父親から、そう言われた煉獄杏寿郎。
 
百人が百人 口を揃えて
その才能を認め 褒め称える者でなければ
夢を見ることさえ 許されないのだろうか
 
強烈な才能と力を持たない者の
夢を叶える為の努力や
誰かの力になりたいと思う その心映えには
何の価値もないのだろうか
 
自分と同じく、父親からたいした才能はない
と言われている千寿郎は懸命に刀を振っていた。
その努力まで価値はないなんて、言われたくない。
 
だから稽古に打ち込む千寿郎を称えた。
初めての任務に向かうから、
その間 千寿郎は家を守っていてくれと励ます。
 
頑張ります
俺きっと 兄上みたいになります
兄上みたいに!
 
杏寿郎は最終選別で言われた言葉を思い出していた。
俺 貴方みたいになりたいです
強くなって 仲間を・・・皆を助けられる人になりたい
 
それは鬼に折られた刀を震えながら握りしめていた
同い年の隊士だった。
 
いつもなら言える筈の「一緒に頑張ろう」が、
一瞬詰まってするりと出てこなかった。
 
それは彼がどうしてか死んでしまいそうだったからだ。
 
その時、父親が「柱になれない」と自分に言った理由を思いついた。
“死なせたくないから”だ。
 
本当の所は解らないが、自分が同じ立場ならきっと・・・
 
増援として向かった杏寿郎。
しかし一歩遅く、隊士9人は全滅。
子供が1人、息絶えた隊士に抱えられ生きていただけ。
 
そして、その子供の近くには、あの隊士の亡骸があった。
鬼に攻撃を仕掛けるが、鬼が笛を取り出したことで、
杏寿郎は察した。
 
急いで耳を塞ぎ、鬼の笛の音を聴かないようにしたが、
刀を握ったままでは完全には塞げませんね。
 
微動だにしない杏寿郎。
鬼の笛の音は神経を狂わせる。
足を動かそうとすると手が動き、
手を動かそうとすると足が動く。
 
日々重ねてきた鍛錬も笛の音一つで全て無駄
ひっくり返された虫けらのように狼狽えているうちに
(鬼と共にいる)犬に喰われて死ぬ
 
犬が杏寿郎に襲いかかっていく。
耳を塞いだままの杏寿郎に為す術はないのか?
 
人生は選ぶ事の繰り返し
けれど選択肢は無限にあるわけではなく、
考える時間も無限にあるわけではない
 
刹那で選び取ったものが その人を形作っていく
誰かの命を守る為 精一杯戦おうとする人は
ただただ愛おしい
清らかでひたむきな想いに 才能の有無は関係ない
 
誰かに称賛されたくて
命を懸けているのではない
どうしてもそうせずにはいられなかっただけ
 
その瞬間に選んだことが
自分の魂の叫びだっただけ
 
隊士達が思うように動かない身体を使い、
必死に子供達を守って戦った。
敵わないと解っていても逃げ出さずに戦った。
そして後に続く者の為に・・・
 
その様が亡骸から覗える。
 
そうだろう みんな
 
杏寿郎は襲いかかってきた犬を斬り、
その勢いのまま鬼の首も斬っていた。
 
鬼は信じられなかったでしょうね。
笛の音は聞こえていたはず・・・
ここで鬼はやっと気付いた。
 
耳を塞いだ時、平手で強打し、
己の鼓膜を破ったのだ。
 
これも仲間が指文字で鬼の能力を示してくれたおかげ。
身体が思うさま動かない中なので
断片的な情報だったが、それでも杏寿郎には十分だった。
 
みんなのお陰で子供の命を守れた。
ありがとう 最期まで戦ってくれて
自分ではない誰かの為に
 
助けてくれて ありがとう
君達のような立派な人に
いつかきっと俺もなりたい
 
強烈な才能や力などなくても、
守りたいモノの為に戦うことは出来る。
杏寿郎の強さの一つには、
こういった想いがあったのでしょうね。
 
次号は「鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 外伝」前編が掲載されます。
これも楽しみですね。